美術をもっと身近に感じてもらえる社会にしたい
卒業生卒業生を訪ねて
石川 瑞紀さん(2016年3月卒)
武蔵野美術大学 造形学部 油絵学科 版画専攻
将来は美術に関わる仕事をしたいとトキワ松学園に入学した石川瑞紀さん。美術の名門大学である武蔵野美術大学に進学した現在は、アシスタントなどをしながらもっと美術を身近に感じてもらいたいと奮闘中です。美術への熱い思いを語ってくれました。
Q:現在大学でどのようなことを学んでいますか?
A:版画専攻なので、基本は版画を制作しています。版画の基本的な技法修得はもちろん、版表現の複製メディアとしての役割や、版の層の重なりを応用したデジタル的な要素を捉えながら、絵画という一つのジャンルを展開して日々制作しています。専攻以外にも、油絵、彫刻、illustratorやPhotoshopの使用法、製図のようなデザイン分野も集中講義で学ぶので、新しい発見で溢れる刺激的な毎日です。また、小学校や中学校に訪問し図工や美術の授業のアシスタントをしたり、様々な現場でワークショップを企画運営したりしていて、美術が社会に発信、影響する力に関しても学んでいます。
Q:今の進路のきっかけになったことを教えてください。
A:もとから絵を描くのが好きで、将来は美術に関わる仕事がしたいと、トキワ松の美術コース(現・美術デザインコース)に入学しました。その中で、1年生の時に進路指導の先生と話をする機会があって、それが私の進路実現に大きく関わっています。1年生ということもあり、当時は学習に対する意識が低く、授業態度も良くなかったのですが、そんな私に対してもやることをきちんとやれば必ず伸びる、あなたの行動次第で道はいくらでも拓けるのだ。」と、諭していただきました。どんな生徒にもレッテル貼らずに誠心誠意指導してくれたことが、実際に美大に進学できたきっかけになっています。また、それを後押しして受け入れてくれる友人との出会いがあったのも、かなり恵まれていたと思います。
Q:トキワ松に在学中の様子や思い出を教えてください。
A:要領が悪く不器用だったので、最終試験で巻き返すというよりコンスタントにある小テストの勉強を横着せずに取り組むタイプでした。学校生活では自由にのびのびと過ごしていたので、今思うとよく認めてもらえていたと思います。
高校生活で一番大きいのは大学受験でした。通常授業や試験のモチベーション自体が大学受験だったので、遊んでばっかりいられないと、いつも焦っていて余裕がなかったですね。流されやすい性格なので高校では自分の意見をしっかり持って行動するように心がけていました。今考えると、頑張っていた生徒委員会の活動も私のなりたい人格形成に役立っていますね。
受験生活を振り返ってみても、トキワ松の先生なしでは大学進学に辿り着けなかったと本当に思います。美術コース(現・美術デザインコース)に在籍していたので、美術大学を志望していました。美大受験は「学力」と「画力」のバランスがとれた人材が求められます。美術の先生が進路面談以外でも、志望大学や予備校のパンフレットを広げて、相談に乗ってくださったのをよく覚えています。
また、実技は波があるので直前まで頑張る余地がありますが、勉強に関してはコツコツ積み重ねないとダメだったので…。先生が授業外の学習に関する質問も快く答えてくれたり、問題プリントを持ってきてくれたり。受験間近になってからは体調面の心配やメンタル面でも支えていただきました。(健康が売りの私もさすがに受験には勝てませんでした、恐ろしい。)学力向上には授業をきちんと吸収することと+α(自主学習)の必要性があります。せっかく私学に通っているのだから、自主学習の充実には生徒が先生をどれくらい活用できるかにかかっていると思っていました。とはいえ、それ相応、もしくはそれを上回る対応をしてくださったのはトキワ松の先生だからだと思います。
Q:トキワ松で学んで、役に立っていることを教えてください。
A:保健・体育が面白かったです。高校2、3年では生老病死をテーマに学んでいくのですが、その中で特に性教育は充実した内容で印象に残っています。性教育というと日本では恥ずかしいという認識がありますし、家族間でも話題にしにくい内容だと思います。それをトキワ松では教科書通りではなく本当に知るべき具体的な知識と実用的な内容で教えてくれて、これから一人の女性として生きていくのに本当に必要なことだと思います。別学は異性がいると話題にしにくい内容も真剣に話し合える環境だと思うので、女子校特有の授業は役に立っていると感じますね。
Q:今後の目標を教えてください。
A:美術をもっと日常的で、ご飯を食べるような感覚で親しみを持ってもらえる分野にしたいですね。
実は大学生として社会福祉や学校現場で図画工作や美術鑑賞教室にアシスタントとして関わっているのですが、その中で「美術」が社会でどのような形で受け入れられ、またどのように影響をもたらしているのかということを考えるようになりました。
学校の美術の授業時間数は年々減少傾向にあり、芸術、美術の必要性が問われていると思います。美術教育について学習指導要領では、創造的で豊かな情操を育てると記してありますが、時間数が少ないために、ほとんど工程の決まった教材使用したり、似たような作品ばかりだったり、同じような指導方法で授業が展開されているために、作業が丁寧で小綺麗な作品ばかりが評価されたりすることが多いようです。しかし、美術教育は作品を作っていくだけではなくて、その人の個性を尊重しながら引き出すクリエイティブな考え方、またその個性を互いに認め合うことが重要だと思います。
また、街を歩いていると美術館の広告はよく見かけますが、美術鑑賞はまだまだハードルが高く、芸術は理解できないと敬遠されていると感じます。しかし、芸術には正解も間違いもありません。鑑賞についても、その人が直接感じたままをまずは大切にしてほしいです。そうした自由な考えが「美術」であると伝えられるように、自己表現とはなにか、美術で表現するとはどういうことか探求し、それをどうやってわかりやすく社会に発信できるかを考えて行きたいです。
Q:トキワ松でよかったこと、後輩への一言をお願いします。
A:授業中に発言しやすいアットホームな空気感が居心地良く、いろいろなことを先生に相談しやすかったです。やはり先生との距離感でしょう。
一生で一度の学園生活、美術でも、他の分野でも何か一つに真剣に打ち込んでみてください。今は失敗をたくさんしていい時期です、どんなことでも挑戦、探究する心を持ってください。それを支えてくださる先生がたくさんいらっしゃいます。悔いのない学園生活を過ごしてください。