校長ブログ

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第77回トキワ松学園高等学校卒業式を挙行いたしました

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3月4日、第77回トキワ松学園高等学校卒業式を挙行いたしました。

 

3年前の入学式、校長になったばかりの私が「君たちは、運が良い!」と式辞で伝えた生徒達。

トキワ松での高校生活を通して、運の良さを身につけてもらえていたら嬉しいです。

卒業式の式辞には、「トキワ松で学んだことを生かして、この先の人生を幸せに歩んでもらいたい」という思いを込めました(この記事の一番下に、今回の式辞の全文を載せています)。

 

卒業式の後は、体育館で行われた謝恩会に招待してもらいました。

クイズ、有志の出し物等、自分達で企画して盛り上げようという思いが伝わってくる、温かい会でした。

準備してくれた卒業生達と保護者の皆様に、感謝いたします。

ありがとうございました。

式辞
高校3年生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。保護者の皆様、お嬢様のご卒業、誠におめでとうございます。この3月の良き日に、こうして第77回の卒業式を挙行できます事は、私の最大の喜びであります。

岡本信明理事長をはじめとするご来賓の皆様、本日はトキワ松学園高等学校の卒業式にご列席賜り、誠にありがとうございます。ご来賓の皆様におかれましても、この卒業式をさぞかしお慶び頂いている事と、お察し申し上げます。

さて、卒業生の皆さん、皆さんはユニークな存在です。
「面白い」という日常的な日本語の意味で、ではなく、「唯一無二の」という英語本来の意味で皆さんはユニークです。
皆さんは、この4月から新生活を始めます。
そこで新しくできた友達と、それぞれの高校生活を話したりするでしょう。
その時、皆さんの当たり前が当たり前で無くなる経験をすると思います。

青学年の皆さんが2連覇したスポーツ祭典、体育祭が学年対抗だったと伝えると、恐らく驚かれるでしょう。
トキワ祭が探究の発表会であること、高校2年で3時間も探究の時間があり、ゼミ形式で個人探究を行ったことも、珍しがられるでしょう。
地下の温水プール、体育館にクライミングウォールあること、テレビの撮影が度々あったこと。
トキワ松での生活は、そもそもユニークである皆さんの唯一無二性を、更に高めたと私は思います。
そして、ユニーク・唯一無二であることは、これからの未来で非常に大切です。

日本は少子化が進んでおり、出生者数が上向きになることは、あと暫くはないでしょう。
人口は減少に転じているのに、新築マンションは建設され続けており、1世帯あたりの人数は減り続けます。
一方、平均寿命は伸びています。
皆さんは、個人個人に分けられた社会で、長生きをする運命にあります。

今の話を聞いて、卒業式にそんな暗い話はいらないと感じたなら、ごめんなさい。
でも私は、これらは暗い話ではなく、寧ろとても明るい話だと考えています。
その事を、今から話します。

まずは少子化ですが、年下の人数が少ない事は、社会の第一線に居られる期間が長い事を意味します。
今後、医療の発達により健康寿命が延びると予想されています。
だから皆さんは、人類史上一番長い年月に渡り、社会で活躍できる可能性があるのです。
ただし、AIが発達しているので、誰にでもできる仕事では活躍できません。
機械には、人工知能には、他の人にはできないことをできる、唯一無二性が必要になります。

次に世帯人口の減少の話をしたいのですが、皆さんは白川郷の合掌造りの家屋をご存知でしょうか?
世界遺産登録をされているので知っている人も多いと思いますが、岐阜県にある高い茅葺き屋根の大きな家です。
ではあの家1軒に何人が暮らしていたかというと、40人とも50人とも言われています。
長男の家族には部屋がありますが、それ以外の家族は廊下の様な所でひしめき合って生活していました。
山間部で農作物の収穫量も少なく、少ない燃料で冬の寒さに耐える為には大人数での生活が効率的だからです。
ただし、プライバシーは一切ありませんでした。
1人暮らし、核家族という生活スタイルは、食料とエネルギーの安定供給が可能になった今だからこそ、可能になったのです。
現代人は、人類の長年の夢であったプライベート空間を、やっと手に入れました。
その引き換えに人と人との濃い繋がりを失いましたが、インターネットの発達により広い繋がりを得ることができています。
つまり、孤独に陥るかどうかが、個人に委ねられる時代になりました。
人との広い繋がりの中から自分を見つけてもらう為には、特徴、つまり唯一無二性が必要になります。

君たちは運が良い、この先の未来で重要になる唯一無二性を、トキワ松での生活で磨くことができたから。
修学旅行の時も、屋外に居る時はずっと天気でしたね。
そして更に運が良いのは、皆さんはトキワ松の探究の授業の初年度だったことです。
初めてのことだったので難しく感じ、混乱もしたでしょう、効率が悪く感じた事もあったでしょう。
しかし、非効率こそが生命活動の基本です。
多くの無駄に見える化学反応の中から、生命活動に必要なほんの僅かなエネルギーを取り出して、生物は生きています。
人間は生物だから、無駄に見える混沌の中からしか本質的な成果を生みだせないと、私は思います。
皆さんの探究活動は初年度だからこそ、本質的で自分だけのものになったと思います。
第一回トキワカップでの皆さんの発表を見て、それに憧れた後輩がクエストカップで企業賞を取りました。
トキワ祭でのポスター発表、1年間の作品集・論文集は、皆さんの作った物が引き継がれ、発展しています。
皆さんは、トキワ松の新たな伝統を築いてくれました。
本当にありがとう。
そしてその経験は、皆さん自身の想像以上に貴重な経験なので、今後に是非生かしてもらいたいです。

ユニークであり、運が良い皆さんが、卒業後の長い人生を幸せに過ごせる為に、あと4つアドバイスをさせてください。

1つ目は、自分の頭で考えること。
私は今日、敢えて「ほんとにそうなの?」と皆さんが感じそうなことを話しました。
そして「確かに」、とか、「いや、そうじゃなくてこうだと思う」とかを頭に浮かべてもらいたかったのです。
真偽不明の情報が溢れる時代、自分の頭で考えて判断することが、幸せに生きる為に必要です。

2つ目は、素直であること。
1つ目と矛盾する様ですが、敢えて皆さんが頭を使う順番で話しています。
自分の頭で考えて、今までの自分の常識が間違っていたと思った時に、それを素直に認める力が必要です。
納得したことを、純粋に心から信じられる素直さを、いつも持っていてもらいたいです。
多すぎる情報に心を振り回されず落ち着いていることが、幸せを感じる為に必要です。

3つ目は、見返りを求めない親切さを持つこと。
インターネット上での他人との繋がりは、広く薄い所から始まります。
その中から誰かと深く繋がり始めるとき、皆さん自身は何かの見返りを求める人を選びますか?
幸せに選び選ばれるのは、見返りを求めない親切さを持つ人同士です。
言い換えると、情報化社会、これから訪れるスマート社会では「無償の愛」こそが、幸せに生きる秘訣であると言えます。

4つ目は、「人は変われる」ことを知っていること。
他人を変えることはできませんが、自分の考え方は何歳になっても自分次第で変えられます。
昨日までの自分にこだわらず、自分を変える勇気があれば、今紹介した3つができて幸せになれます。

自分の頭で考える、素直、見返りを求めない親切、人は変われる、覚えていてくださいね。

最後に、運が良い皆さん!
これからはそれを、周りの人に分け与え続けてもらいたいと思います。
トキワ松で友達に親切にされたように、先生方から丁寧に接してもらったように。
そうして、どうぞ幸せな人生を!

2025年3月4日
トキワ松学園高等学校校長 田村直宏