コロナ禍でもあきらめない。
失敗しても前を向く。
自分のやりたいことに妥協せず、
真剣に向き合うことが
「探究」だと思います。
Y.Hさん
コロナ禍で海外留学に行けないなか、
グローバルユース国連大使として
海外と交流
いろいろなことに興味や疑問を抱き、自分自身で調べ、他者と協働して、その答えを導き出す。トキワ松学園では、そんな「探究女子」を育てることを教育理念としていますが、今日は「探究女子」を代表してHさんにお話をお聞きします。
よろしくお願いいたします。
Hさんは高校2年生の1年間で、多種多彩な活動に積極的に取り組まれたとのことですが、それらの活動内容について詳しく教えてください。
はい。やはり「グローバルユース国連大使」として活動させていただいたことが最も印象的です。
グローバルユース国連大使は、「日本が持続可能な社会を実現するために、次代を担う若者を対象にSDGsに対する認識を深め、目標達成に向けて自発的に行動できる人財を育成することを目的とする事業」ですが、この活動に興味を持ったきっかけは何ですか。
もともと英語が大好きで、高校生のうちに海外留学に行きたいと考えていました。それがコロナ禍で難しくなったので、何か代わりに国際的な交流を体験できることはないかと調べているうちに「グローバルユース国連大使」を知りました。英語で志望動機をスピーチする動画を送付するなど、選考がありましたが、無事にクリアできました。
具体的には、どのような活動でしたか。
大きな活動の流れは、オンライン事前研修、国内合宿研修、オンラインサミットの開催、そして啓蒙活動の実施です。オンライン事前研修では、東京大学名誉教授の上野千鶴子さんのお話をお聞きしたり、外務省の方や国連WFP協会の方からSDGsに関する講義を受けたりしました。
それだけでも貴重ですね。
はい。でもそれ以上に楽しかったのがオンラインサミットでした。海外の高校生も交えて7~8名でチームを組んで、与えられたテーマに沿ってオンラインでミーティングを重ね、2度のサミット本番で発表するのです。ミーティングや発表は、もちろんすべて英語を使います。私のチームは日本人が3人、あと台湾、中国、フィリピン、インドネシアと全員アジア系のメンバーでした。SDGsとコロナ禍について議論しましたが、それぞれのメンバーから個性的な意見が飛び交って大きな刺激を受けました。
それは素晴らしい経験ですね。残念ながら海外留学には行けませんでしたが、それ以上に密な交流を、海外の高校生たちと行えたのかもしれませんね。
そう思います。
その後の啓蒙活動は、どのようなことを行うのですか。
グローバルユース国連大使として、地域の青年会議所の方と相談しながら、SDGsを広めるための活動を行います。私は母校の小学校を訪ねて、小学生たちにSDGsを知ってもらうための授業をしたり、他の地域の国連大使の高校生と連携してラジオ番組の制作に携わったりしました。ラジオ番組の前半は、小学校で授業をしたことの成果発表を行い、後半は「未来の先生フォーラム」で行った上野千鶴子先生との対談を放送しました。
普通の学校生活では体験できないことばかりですね。
はい。その他にも大田区役所へ活動報告のために訪問したり、サンリオピューロランドでのイベントに参加したり、また啓蒙活動終了時には、全体での活動報告会が行われたのですが、その際に当時の文部科学大臣だった萩生田光一大臣とお話する機会もありました。本当に信じられないような経験をさせていただきました。
それらの経験は、すべてHさんの行動力があったから実現したことです。まさに「探究」の成果だと思います。
国際交流と子どもの貧困への関心から、
学生団体を立ち上げ、食のイベントを開催
Hさんは学生団体を立ち上げての活動もされています。団体を立ち上げるきっかけは何でしたか。
今でこそ英語が好きになり、海外にも目を向けるようになった私ですが、英語を学んだのは中学に入学しての「apple」がスタートでした。もしも、もっと早く英語や海外の文化に触れるきっかけがあれば、さらに海外への興味は強くなっていたと思うんです。今は小学校から英語を学びますが、海外文化と触れ合う機会はまだまだ少ないと思います。そこで小学生たちに海外に興味を持ってもらうきっかけを与えられる活動をしたいと考えました。
なるほど。素晴らしい着眼点だと思います。
それで担任の先生に相談したら「団体を立ち上げてみては?」とアドバイスされたので、5名のメンバーで「GBC」を立ち上げました。「GBC」は友人が名付けたのですが、「Glue(つなげる)・Blue(青空は平和の象徴)・Crew(乗組員)」の頭文字で、「青空のような澄み切った広がりと大きな大志を抱き、船旅に出る乗組員」という意味を込めています。ただ、団体を立ち上げて、やりたいことの方向性も見えてはいたのですが、ここからどう進めればいいのか分からず、そんなときに田村先生に相談させていただきました。
まだまだ簡易的なものでしたが企画書を見せてもらって、コンセプトが明確でしたし、しっかり伝わってくるものがあったので、何か力になりたいと思いました。
国際交流とともに、SDGsの大きな課題のひとつでもある子どもの貧困に関しても関心があったので、食文化を通じて子どもたちに海外を知ってもらうというプランが浮かびました。具体的には、料理が得意な海外の方に協力いただき、子どもたちと一緒にその国の郷土料理を作って、食べて、交流を広げるというものです。イベント名は「グローバルキッチン」としました。
ちょうど知り合いに女性の自立を支援している人がいて、企画書を見てもらったところ、ぜひ協力したいと申し出てくれたのです。
頭で考えていたことが実際に動き始めたので、とても有難かったです。具体的に進めるために企画書を作り直し、地域の子ども食堂にも協力していただけることになりました。ただ当初はタイ料理を作る計画でしたが、タイの人が見つからずに困っていると、ベトナムの人なら紹介できると言ってくださる方がいて、無事に第1回の「グローバルキッチン」は、ベトナム料理での開催が決定しました。
イベントのチラシを作って、宣伝も頑張っていましたね。
メンバー5人の母校の小学校とトキワ松学園小学校にチラシを配布させていただくなどして、告知しました。でも、最終的に応募してくれた小学生は2名だけ。しかも、コロナ禍の影響で、本当は一緒に作って、食べて、交流することが狙いでしたが、作るところはYouTubeを使った動画配信となり、食べるところから交流する形になりました。参加者は2名だけの少し寂しい結果ではありましたが、最初からすべて自分たちの手で立ち上げて、イベントを実現できたことは自信になりました。それに参加してくれた小学生の保護者の方から、「子どもがベトナムに興味を持ったようで、テレビでベトナムの話題が出てくると話をするようになりました」とお言葉をいただき、とてもうれしかったです。
ただここで満足するHさんではありませんよね。すぐに次の行動に移ります(笑)
はい。すぐに第2回目を企画しました(笑)。実はグローバルユース国連大使として訪問した大田区役所の国際交流に関わる部署の方が、グローバルキッチンの取り組みに興味を持ってくださって、「できることがあれば何でも協力します」と言ってくださいました。そこで最初に予定していた、料理を作ってくれるタイの方を紹介していただけたのです。
確か第2回目は7名の小学生が集まったんですよね。
はい。しかも、その7名には、前回参加してくれた2名も含まれています。参加者が増えたこともうれしかったのですが、2名がリピーターとして参加してくれたこともすごく感激しました。田村先生から紹介いただいた方から、「今度はミャンマーの人を紹介するよ」とお声がけいただいているので、第3回目も計画中です。
トキワ松の「思考と表現」の授業で
SDGsを知り、
衣服ロスの問題解消に積極的にチャレンジ
国連大使の活動も、学生団体の立ち上げも、SDGsというキーワードが関係していますが、もともとSDGsの取り組みには関心があったのですか。
実は最初にSDGsのことを知ったのは、高1の「思考と表現」の授業でした。チャレンジカードでさまざまな問題や課題が見えてきて、私は洋服が好きなのですが、SDGsの12番目が衣服の問題とも連動していることに気づいて、一気に興味が深まりました。
SDGsの12番目は「つくる責任 つかう責任」ですね。
はい。「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」とあるのですが、そこには現在、大量廃棄されている衣服の問題も含まれています。その原因は、例えばせっかく新しい洋服を買っても、数年経つと流行遅れだからと着なくなったり、子どもの成長につれて小さくなって着られなくなったりなど、さまざまです。
フードロスとともに、衣服ロスも国際的な問題として注目されています。
いろいろと調べていくうちに、衣服ロスの問題に対して、自分たちにも何かできないかと考え始めるようになりました。そして特に子どもの成長に伴う衣服ロスの解消のために、まだ着られる子ども服を回収し、ECサイトで安く販売し、その売上は寄付する仕組みを考えて実行してみたのです。田村先生にもご協力いただき、トキワ松学園小学校の生徒たちに話をする機会を得られました。
実際に販売もしてみたのですよね。
小学生や保護者の方のご協力で子ども服を回収させていただき、販売もしました。ただ、実際に行動してみて自分たちでも気づいたのですが、古着を販売するなら「メルカリ」などの個人で気軽に売買できるサイトが既にあるので、私たちが仲介する意味があるのかとなりました。
確かに個人の売買では、「衣服ロスの解消」にはつながりませんよね。
そうなんです。そこがもどかしいところです。私たちが考えた取り組みは、大前提として「衣服ロス問題」が背景にあるので、その視点で突き詰めれば、何か見えてくると思うのです。そこで「BLAST! SCHOOL」という、高校生の起業に対して第一線で活躍されている経営者や起業家の方がサポートしてくれる取り組みに応募しました。今日現在は最終段階まで残っている状況です。もしかすると、さまざまなアドバイスをいただいたうえで、私たちの取り組みが形になるかもしれません。もし仮に実現しなかったとしても、これからも問題意識は持ち続けるつもりですし、さまざまな問題について発信することも続けたいと思います。
人とのつながりに支えられて大きく成長。
興味のあることに夢中になれるのが
「探究女子」
これらのさまざまな経験を通じて、自分自身で成長を感じることはありますか。
グローバルユース国連大使のサミットに向けたミーティングで、他国の高校生がドンドン発言するのに驚いて、自分も思ったことは積極的に発言しなければいけないと気づきました。私はどちらかと言えば人見知りで、仲間が5人いると4番目に発言するようなタイプだったのですが、そんなことを言っていられる状況ではなく、とにかく発言しなければ話題から置いていかれる感じでした。そういう意味では、自分の伝えたいことをしっかり伝える大切さを知ることができましたし、知らない人とも臆せず話せるようになったのは大きな成長だと思います。
自分自身の成長を言葉で話すことができることは、素晴らしいですね。あと、何か自分にとって「財産」になったことはありますか。
何と言っても、人とのつながりの大切さを体感できたことです。田村先生から紹介いただいた方から、また違う方を紹介いただけたり、グローバルユース国連大使の活動で訪問した区役所の方からグローバルキッチンの方を紹介いただいたりなど、人のつながりが広がることで、自分のできることも大きく広がっていった気がします。このことは自分にとって何よりの「財産」だと言えます。
そうですね。「グローバルユース国連大使」「学生団体立ち上げ」「衣服ロスへの取り組み」と、大きな3つの活動ですが、その3つがバラバラで進行されたのではなく、それぞれが連動して新しいことを生み、その先につながっている流れが素晴らしいと思います。その背景に、いろいろな人とのつながりがあることも。
それと視野を広げることは大切ですが、例えば海外など遠くばかり見ているのではなく、自分の身近にも気づくべき問題がたくさんあることも教わりました。実はグローバルユース国連大使の啓蒙活動の一環で行ったラジオ番組の制作で、上野千鶴子さんと対談したとき、海外の問題ばかり話題にする私に、「日本にも問題は山積みですよ!」と、ビシッと指摘されたのです。確かにそうだと思いました。自分の身の回りにもいろいろな問題や課題があり、それを突き詰めていくと、国際的な問題にもつながっているものなのです。
さて、Hさんにとって「探究女子」は、どんな女子をイメージしますか。
自分の好きなことや興味のあることに、真剣に夢中になれる女子だと思います。「このことに関しては私が1番!」と胸を張れる何かを持っている人です。私も今回いろんな経験をさせていただきましたが、まだ「これは1番」と言えるものはないので、これから何か見つけたいと思います。
あらためて考えてみると、今日お聞きした話は、すべて高校2年生の1年間の出来事です。人は1年間でこれだけ大きく成長できることを体現してくれました。トキワ松学園では今年度から「探究」に関連した授業をさらに充実させていきます。いろいろなことに対し、自分から進んで積極的にチャレンジしていけば、Hさんのように自分で自分の成長を実感できるような、充実した学校生活を過ごすことができるはずです。我々もしっかりとサポートします。これからもぜひ、一人でも多くの「探究女子」を育てて行きたいと思います。Hさん、今日は貴重な話をありがとうございました。これからもドンドン探究を深めてください。
ありがとうございます。これからも探究女子であり続けたいと思います。